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2012年11月25日 (日)

法曹の多様性確保に関する行政当局の認識

現行制度は法曹の多様性の確保が芳しくなという認識は、行政当局にも当然あるようで、前の記事で取り上げた法曹養成制度検討会議提出資料には「法曹の多様性の確保に関わる指摘の例」として以下の項目が列記されています。

【多様性の確保が困難である原因についての指摘】
○ 法曹志願者が減少している原因は,特に志願者の多様性を確保することを阻害する要因として顕著に当てはまると考えられる。
○ 社会人が職に就いたまま法科大学院で学ぶことは基本的に難しいが,仮に職を捨てたとしても司法試験合格が約束されるわけではない。
○ 多様性を確保する観点からも,司法試験の合格率の上昇に資するような方策を検討することが重要である。
○ 他分野からの法科大学院入学者の中には,法律学の履修に適合できない者もいるし,とりあえず入学を認めておいて厳格な成績評価でふるい落とすということも酷であり,とりわけ他分野の者にとっては,法曹を志願することのリスクが高いととらえられやすい。
【多様性の確保の状況に関する指摘】
○ 各法科大学院において,多様性の拡大を図るための入学者選抜基準を概ね満たしていることなど,現状についてかなりの成果を上げていると評価してよい。
○ 法科大学院設立当初と異なり,今後,社会人として法科大学院を志願する者は,学部修了時点では法科大学院への入学を選択せず,いったん社会人になった後に法科大学院を志願する者に限られることに留意する必要がある。
○ 大学法学部が存続している以上,大学進学前から法曹となることを志して大学法学部に入学し,そのまま法科大学院に進む者も正当に評価されなければならない。

今後の議論の元になるものと思いますが、一番始めの指摘以外は、的を射ているかどうか疑問の余地があります。たとえば

社会人が職に就いたまま法科大学院で学ぶことは基本的に難しいが,仮に職を捨てたとしても司法試験合格が約束されるわけではない。」

という指摘。

仕事を辞めずにローに通うのが難しいという前段はその通り。後段に「職を捨てたとしても」とありますが、この、仕事を辞める、というハードルが、特に家族持ちにとっては、ものすごく高いのです。だから、そのあとの「司法試験合格が約束されるわけではない」という記述はそれほど大きな意味を持ちません。そもそも合格が約束される試験なんてほとんどないでしょう。
現役社会人にとっては、ローに通う時間の捻出が極めて難しいことが最大のネックなんです。そんなことは導入前から明白でした。何を今さら、と思います

「多様性を確保する観点からも,司法試験の合格率の上昇に資するような方策を検討することが重要である。」

司法試験の合格率の上昇と多様性はあまり関係ないと思います。合格率云々以前に「働きながらローに通うことが極めて困難」というところに問題があるわけですから。

「他分野からの法科大学院入学者の中には,法律学の履修に適合できない者もいるし,とりあえず入学を認めておいて厳格な成績評価でふるい落とすということも酷であり,とりわけ他分野の者にとっては,法曹を志願することのリスクが高いととらえられやすい。」

前段はちょっと分かりにくい記述です。他分野の人の中には、そもそも法律を学ぶ素養がない者もいる、という指摘のようですが、「者もいる」って、どういうことでしょう。法学部出身者でも法律学の履修に適さない「者もいる」でしょう。「者が多い」って言うなら少しは分かりますが。
後段は、他分野の人の成績が芳しくなく合格率が悪いため、リスクが高いととらえられ、法科大学院入学が敬遠されている、ということでしょうか。だとしたらその原因は、法科大学院の教育の質が悪いから、ということになるんでしょう。

「各法科大学院において,多様性の拡大を図るための入学者選抜基準を概ね満たしていることなど,現状についてかなりの成果を上げていると評価してよい。」

「入学選抜基準」というのは、入学者中、非法学部出身者または社会人経験者が3割以上となるようにすべし、という文科省のお達しを指すのだと思います。でも入学以前に、経済的時間的に余裕のない社会人はそもそも志願しません。また、全体の社会人入学者割合、非法学部系の入学者は年々、激減しています。そのことに危機感を覚えるのがふうつであって、「かなりの成果を上げていると評価してよい」わけがありません。そもそも旧司法試験でも受験者で3割基準が満たされていたし、合格者でも満たされていた可能性は大きいと思います。
※参考
全体社会人入学者 H16=2,792人(48.4%)→H24=689人(21.9%)
全体非法学部系入学者 H16=1,988人(34.5%)→H24=591人(18.8%)
旧司受験者の有職者(社会人)割合 H21(37.2%),H22(37.8%)
旧司合格者の非法学部系割合
H21(27.17%),H22(22.03%)

「法科大学院設立当初と異なり,今後,社会人として法科大学院を志願する者は,学部修了時点では法科大学院への入学を選択せず,いったん社会人になった後に法科大学院を志願する者に限られることに留意する必要がある。」

私の勉強不足で指摘の意味がよく理解できませんでした。
すいません...orz

「大学法学部が存続している以上,大学進学前から法曹となることを志して大学法学部に入学し,そのまま法科大学院に進む者も正当に評価されなければならない。」

これも意味がよく分かりません。もしかして意訳するとこんな感じでしょうか。
「『多様性』だの『社会人』だの、いちいちウルせーな。ガキんときから『弁護士になる!』って決めて、大学の法学部からローにストレートで行った奴だって立派なもんじゃねーか。そういう若けー奴もきちんと評価してやれや、なっ!」
私にはこういう逆ギレ(?)開き直り(?)に聞こえちゃうんですが。
だとしたら、もはや理念の放棄ですね。

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コメント

「他分野からの法科大学院入学者の中には,法律学の履修に適合できない者もいる」というのは,例えば理系出身の人が未修者で入ってくる場合,入試では法律の問題が一切出題されないので,法律学がどういうものか入学時にはさっぱり分からない。そしていざ法律の勉強が始まると,(数学などと違って)「答えが2つあるような学問は学問じゃない」などという感じで法律学の発想に付いて行けず,結局自分から退学してしまうというようなケースが結構あるらしいです。
また,「法科大学院設立当初と異なり~」という部分は,そもそも「社会人」の定義が法科大学院によってまちまちで,中には大学時代にアルバイトをしていただけで「社会人」と認定してしまうようなところもあったので,法学部修了後3年経過していない入学者を「社会人」に含めるのは原則として妥当でない,という基準が後から設けられたという経緯を指しているものと思われます。

黒猫様 ご教示ありがとうございます。私の勉強不足でした。すると、「留意する必要がある」というのは、「今後、社会人入学者の割合が下がったとしても、それは『社会人』の定義を厳格にしたせいだから大目に見てあげようね」という意味になるんでしょうか。役所の文章は一読了解とはいきませんね。

「法科大学院設立当初と異なり,今後,社会人として法科大学院を志願する者は,学部修了時点では法科大学院への入学を選択せず,いったん社会人になった後に法科大学院を志願する者に限られることに留意する必要がある。」
この文章の意味ですが、私の理解するところでは、ロー設立当初の社会人は、そのときに初めてロー進学を選択肢として検討する機会が訪れたのに対し、今の社会人はすでに一度ロー進学を検討する機会があって、その上で進学しない(就職する)という結論を出した人たちだから、あらためて「やっぱりロー進学をしよう」と思い直す動機付けに欠ける、だから社会人の入学割合がロー設立当初より低下していくのは当然のことであり、そのことをもって多様性が確保できていないと制度批判をするのは筋違いである・・・・という意味じゃないかと思うのですが、いかがでしょうか?

>schulzeさん ご指摘ありがとうございます。
実は私も最初はそう解釈しました。ただ「~者に限られる」という表現に引っ掛かりました。
例えば(私もそうでしたが)会社に入社後、10年ほど経過してから一念発起して「法曹になろう」と決意する人は、今も想定されていると思います。そのような社会人は、やはり学部終了時点でローはできていなかったので、ローを選択肢として検討する機会はなかったと思います。たしかに8年前からは会社を辞めてローを選択する機会があったのに選択しなかったわけですが、少なくとも「学部修了時点で~(ロー進学を)~選択せず」に社会人になったわけではありません。
本資料の当該指摘の文言を素直に読むと、社会人の学部修了年次を区別することなく「これからローを志願する社会人は、学部終了時に一度ロー進学を検討する機会があった者しかいない」と言っていることになってしまうので、なんだか良く分からなくなってしまいました。(>_<)
一昨日の11月29日開会の資料が既にHPにアップされていますが、
http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00008.html
事務方から前回資料の修訂正等は出ていないようです。今後、公表される議事録に事務方の釈明などが出ていなければ、法務省に問い合わせてみたいと思います。
(まだ私が何か勘違いしているかもしれませんが)

>会社に入社後、10年ほど経過してから一念発起して「法曹になろう」と
>決意する人は、今も想定されている

きっとそこまで配慮した文章じゃないんだろうと思いますよ。
社会人入学者が思ったほど増えないことに対する法科大学院サイドの逆ギレにすぎないと、私は受け止めていますが。

黒猫先生がおっしゃるような社会人の定義の問題なら、「当初とは定義が異なっていることに留意すべきである。(定義が異なっているから単純比較はできない。)」と書けばいいだけの話のように思います。わざわざこんなまわりくどい表現にしたのは、なぜなんでしょうか。

>schulzeさん やっぱり、そうなんでしょうか。おっしゃるような「きっとそこまで配慮した文章じゃない」という感想は、実は私も薄々、抱いていたところです。
役所の文章というのは、あとでごまかしがきくよう(従来の見解と矛盾や齟齬はない、という言い訳がギリギリ通じるよう)、多義的または広範囲な解釈を可能とするための小細工が巧妙に施されているのが常です(たとえば「等」の多用)。そこで当該文章について矛盾や齟齬のない解釈を考えたのですが、私の頭では及びませんでした。結局、「多様性」が実現できない現状を糊塗するための、苦し紛れの文章に過ぎなかったのかなあ、と今では思います。優秀で有能と称される官僚の文章としては、あまりにお粗末としか言いようがありません。ただ、官僚側にも言い分があるかもしれませんので、時機をみて法務省に問い合わせてみたいと思っています。

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