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2013年2月 7日 (木)

法科大学院視察の実態

ちょっと古い話ですが「法曹の養成に関するフォーラム」で早稲田法科大学院(平成23年12月13日実施)と東大法科大学院(平成24年1月20日実施)の視察が行われました。その際の学生や教員との意見交換の内容を文部科学省がまとめた文書が情報公開請求で開示されました。読み比べてみると、両校で意見のトーンが随分、違います。

以下がその内容なんですが、学生や教員による各意見の冒頭に付いている●印について
・法科大学院制度の現状や司法制度改革の方向性を肯定・評価する意見は青色に、
・法科大学院制度の現状や司法制度改革の方向性に否定的または問題点を指摘する意見は赤色に、
・現状肯定・否定のいずれでもないか、良い点と課題点を両論併記する意見は黒色に、
それぞれ私の独断で分類してみました(分類に迷う微妙なものは黒色にしたつもりですが、あくまで独断です。ご容赦ください)。

初めに早稲田ロー視察の意見交換での主な意見です。

 法科大学院は実務家の先生が多く、実務と理論の架け橋をして教えてくれる。他学部出身者や社会人経験者の人もいて、例えば社会人経験者の人から「会社ではこうだった」等の話を聞くと、法律が実社会でどう役立っているかがわかる。
 1年目のときは正直六法の使い方もよくわからなかったが、授業は法律の基本的な事柄がわかっている前提ですすめられているように感じた。私は他学部出身だったので、周囲にいっぱい助けてもらって何とかやってこれた。
 刑事のクリニックを受け、弁護士の先生に付いて、被告人との接見や実際の裁判にもついて行った。弁護士の先生を見ていると、法律知識だけではなく、関係者と円滑なコミュニケーションを図れるかが重要と感じた。
 NGOにエクスターンし、8月下旬に10日間タイに行き、弁護士が人権について教える場に一緒に行った。日本の弁護士が国際的な人権活動にどう役立つことが出来るのか、また、国内にいたら国内業務がメインの仕事になるが、国際的な場で自分のキャリアをどう活かせるのかについてしっかり考える機会となった。
 学生の質が落ちていると言われつつあり、司法試験合格者数の人数を減らすという話で進んでいるように感じるが、司法試験合格者数は政府として3,000人を維持して欲しい。
 私は他学部出身であり、法科大学院が無ければ法律家になろうと思わなかった。多くの人にチャンスを与える制度だと思う。新司法試験の受験資格に予備試験のルートが出来たが、働きながら予備試験の勉強をするのは無理。
 入学前は漠然と「法曹になりたい」と思ってそのためには法科大学院に入る必要があるから入ったものが、法科大学院に入って実務家教員から実務の話を聞くと勉強のモチベーションが上がるし、勉強する仲間がいるので励まし合えることはいいこと。法科大学院制度を維持してほしいと思う。
● 新司法試験の過去問を解いた感想は、時間が足りないということ。ちゃんと読めば書けると思うものの、今まで勉強してきた成果を全て出すためには時間が足りない。

 旧試験と比べると現場型という印象がある。暗記していていても解けない。
 法科大学院を受ける時に旧司法試験の勉強もしていたが、今の試験は暗記だけでは太刀打ち出来ないとショックを受けた。でも法科大学院で学んだりーガルマインドで、過去の判例がないものを解決する、考える力がついてきた。
 あらかじめ問題が出されてレポートを提出する。実務家となった場合に問題をどう解決するか、現場において事情が複雑に絡まったものをどう解きほぐして答案を書くのかというところを教えてくれる。
 リーガルクリニックでは実務家と研究者が両者で共同して教えるのが特徴。法科大学院でないと出来ないスタイルだと思う。
 事例を出して、実務でやっている内容を学生に考えさせている。問題解決能力を養うもの。あらかじめ学生に課題を提出し、事前にレポートを提出させ、学生はどの点が理解できていないのか、学生の状況を把握しながら授業を行っている。
 司法試験を目指している人に対しては、修了後特別研修生としての身分を与え、アカデミックアドバイザーの活用や自習室を開放するなどして3振するまで面倒をみる体制。
● 純粋未修者はいろいろな者がいる。総代、つまり学年のトップの成績となる者はいつも純粋未修者であったりもする。未修者については、法律の専門試験を課さないため、差はあるが仕方がない。

 模擬裁判でも弁護士顔負けの弁論をする者もいる。今回は時間的に厳しいが、是非見に来ていただきたい。
 悩ましい問題。司法試験は資格試験であるということであり、質についての議論はあるが、我々としては、2,000人と3,000人の間で実際にどれくらいの差があるのか、2,000番の者と3,000番の者にさほど差があるようには思わない。
 3,000人となっていない点はいろいろ議論があるが、法科大学院志願者全体の質が下がっているのが問題
 学生は目の前に司法試験があり、自由な活動が制限されている印象。震災のボランティアなどで現地にという話も時間も余裕もない状況。
 司法試験に受かったものの就職先がないという状況は伺っている。法科大学院側としては、職域拡大とその拡大される職域に向けた教育をやっていかないといけないと思っている。

全20項目の主な意見のうち肯定的意見15否定的意見3その他2です。

次に、東大ロー視察の意見交換での主な意見です。

 法科大学院制度が始まり8年から9年経ち、私達が法科大学院に入学する時は修了者の8割から9割が合格すると言われていた。しかし制度見直し論が言われるなど事態が急変している。落ち着いて学修したいのに、外部から色々と言われて学修環境に不安を与えており、いい気がしない。
 入学してこれまで勉強してきて法律家になるイメージができてきた。私は私なりの法曹像がであり、受かればそのようになりたいと思っている。
 予備試験は法科大学院の進学費用や通う時間が無い人にも法曹を目指せるようにする制度だと理解しているが、抜け道をつくるのであれば、法科大学院制度にこだわりを持って、費用の点で経済的支援制度など考えて欲しいと思う。このまま法科大学院制度が無くなると悲しい。
 純粋未験者に対するフォローアップの方法を多少何とかしてほしい。法科大学院を卒業しても将来は法曹になれないかもしれない、なれても就職できないのではないかと不安になる。
● 司法試験の合格率が20数パーセントと見た目上は低い数字であるが、この数字が一人歩きしているような気がしている。本気で法曹になりたい人は合格して法曹になっている。

 司法試験の時期や入学定員の問題もわかるが、私は司法試験に1度落ちた友人の落胆を見ていて、司法試験の受験回数制限がプレッシャーになっていると感じる。
 今の制度では社会に出るまで時間がかかる。27、28歳になり、法曹三者になる場合は周りも同じ位の年齢なので良いが、公務員や企業に就職した場合は学部卒で就職した者と年齢に差がある。社会に出るまでに時間のかかる状態を何とかしてほしい。
 授業料が高い上に、授業の予習復習をしているとアルバイトができず、私は親のスネをかじっている。スネをかじれる人は良いが、親に負担をかけることができない人もおり、奨学金なども借りているが、経済的に苦しい状態の友人は多い。
 限られた時間の中で教育効果があがるように、学生から答えが上手く出てこなければ別の切りロから質問し、理解してほしいところを考えながら授業を進めている。
 自分達が学生の頃は大教室での授業に加えて予備校に通い勉強していたが、今の法科大学院生は少人数で密度の濃い授業を受けている。長い目で見て、全体として法律家としての素養を身に付けているかどうかが重要。
 いろんな方向から質問することでこちらの問題意識を伝え、共有してもらうようにしている。答えがないオープンな議題については学生と色々と議論しながら一定の方向に考えてもらえるように考えてやっている。
● 未修者入学者数と社会人経験者が減っている一方で、他学部出身者はコンスタンに入学している。未修者の特徴として、純粋未修者は法律の勉強が水に合い既修者を追い越すくらいに伸びる学生がいる一方で、法律の勉強が今ひとつ合わない学生もおり、その格差が激しい。

 未修者は1年経ったら既修者と一緒に学修することになる。1年生のうちは楽しいが、2年生に進んだら既修者とのギャップを感じ、司法試験を見て不安に感じる。制度としてはどのようにケアしていくかは課題かと思う。
● 個人的な意見だが、司法試験問題が難しすぎるのではないかと思うことがある。制度的に司法試験問題の検証や見直しが出来ないのかと思う。
● 自分が学生の頃より法科大学院生は熱心に勉強している。授業開始に遅れると大ブーイングを受けるし、文章を添削するとその内容に食いついてくる。しかし、当初はなかったこととして、未修者はバラツキがある。学生をどう底上げしていくか、教師としての勉強もしているところ。

全15項目の主な意見のうち肯定的意見5否定的意見6その他4です。

両視察ともほぼ同じ時期に行われましたが、ご覧の通り意見の内容はかなりトーンが違います。早稲田の方は、質の高い教育が施され、院生も学習意欲を高めながら充実した環境の中で学生生活を謳歌しているように見受けられ、全国のLSの模範となるべき理想的な大学院像を思い浮かべます。

これに対し東大の方は比較的、現実を冷静かつ客観的に見つめ、将来を決して楽観視せずシビアに見据えているように見えます。現行制度にはいいところもあるけど、問題点も少なくないことを率直に認めている感じです。

でも、法科大学院としての実績や人気は東大ローの方が上なんですね。それなのに内部の評価は逆で、しかも随分とギャップがある―。強烈な違和感を感じます。

どちらの意見が実態をより正確に反映しているのかは、広く国民から意見を募った、「法科大学院(法曹養成制度)の評価に関する研究会報告書」に対するご意見の募集でロー制度がボッコボコにされたことを思い起こせば明らかでしょう。

ではなぜ早稲田視察はマンセー意見が多くを占めたのか。

もし視察に大学総長が同席していたら、批判的な意見は言いにくいだろうなあ、と思ってフォーラム資料の早稲田大学法科大学院視察の概要をみてみると、さすがに出席委員の中に総長の名前はありませんでした。

しかし、教員側の出席者欄をふとみると、

6 教員との懇談会
(1) 出席者(敬称略)

鎌田薫早稲田大学総長(民法)

―(以下省略)―

これでは少なくとも教員は本音を言いづらいだろうなあ。

それにしてもフォーラムの有識者委員が視察の席で大学院側の意見を述べる方にいたとは。

これが「視察」と呼ばれるものの実態なんでしょう。お膳立てされた場で行われる「やらせ」、茶番とでもいいましょうか。行政上の各種審議会なんて恣意的行政に公正中立専門性を装わせるための道具にすぎないと痛感します。それを知ってか知らずか分かりませんが、審議会等の答申や意見を無批判に受け入れ、時に金科玉条のように扱うマスコミの責任も大きいと思います。

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コメント

こういうイベントは、匿名でやらないと、忌憚なき意見はでないと思います。
また、これらのローはいわゆる上位校であって、学生にもある程度の余裕(もちろん勉強については余裕なく必死でやっておられるはず)があって(だからこういう意見交換会に参加するのでしょう)、下位校とは違うんじゃないかなと思っています。しかし、されど下位校もローには違いありません。

あと、肯定的意見を述べている学生の意見を見るに、
「それって、受験時代にしなくていいんじゃない?むしろ修習でやったほうがもっと伸びるよ」
と感じました。

弁護士HARRIER先生
ブログの方も読ませていただきました。まったく同感です。
そもそも大学院当局が参加者を人選するのでしょうから、匿名座談会的な意見交換は期待できません。しかも大学院側のトップが意見聴取側の組織のメンバーですから、なおさら忌憚なき意見など出てきません。今後は法曹養成制度検討会議のパブコメが重要になってくると思います。

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