朝日の法曹養成報道は変わっていないのか
法科大学院、淘汰の波 学費高く、予備試験が人気(朝日新聞2月22日付朝刊紙面)
http://www.asahi.com/articles/DA3S11614853.html
慰安婦報道などに絡む一連の“誤報”問題を受けて、法曹養成に関する朝日の報道姿勢が改善されてほしい、と期待していますが、この記事を読む限り今のところ大きな変化はみられません。私がそのように感じる点を挙げます。
○そもそも「『予備試験』の利用者が増えている」とする記事の大前提が崩れちゃってます。今月中には平成27年度の出願者数が発表されると分かっていたはずなのに、なぜそれを待てずに予備試験組の増加を前提に“改革の理念を予備試験が害している”と言いたげな記事を掲載したのか。
○記事中に法曹を目指す学部生が3人登場しますが、経済的に苦しいためローに行けない(ので予備試験受験制限は困る)という学生を取り上げていません。データによれば予備試験を受験する大学生の12%はそのような学生であり、決して無視できない割合で存在するはずなのに、です。
○2人の識者の談話が掲載されていますが、いずれも法科大学院関係者で予備試験の現状に批判的です。談話を2人分掲載するのであれば、異なる見解の識者を選ぶのが公平で多角的な報道に資するはず。たとえば、1人は和田吉弘先生や河野真樹さんの談話を掲載してもよかったのでは。
○予備試験に対する文科省側の「?」な言い分をそのまま掲載しているのも疑問。記事によれば文科省内部には予備試験組の増加について「医学部を修了していない医者がメスを握ることになるのと同じ」という批判があるそうです。しかし、医学部で主要な教員が医師国家試験に合格していないとか、メスを握ったことがない(診療の実施経験がない)、ということがあるでしょうか。司法試験に合格しておらず、実務経験もない学者教員が主に指導する法科大学院を医学部にたとえるなら「医師の資格がなく、メスも握ったこともない人たちが、実際にメスを握る医者を育てようとしてるのと同じ」といえるでしょう。
また、文科省側の言う通りなら、ローを修了していない旧司法試験組は過誤を起こしかねないヤバイ法曹ということになりますね。
朝日新聞は第三者委員会の検証報告を受けて社長名で
報告書では「編集(部門の紙面づくり)に経営が介入することは、最小限に、しかも限定的であるべきだ」と指摘されました。編集へのゆきすぎた関与は、会社の事情を優先する内向きの体質が招いた結果で、読者に公正で正確な記事を届けるという大原則が二の次になっていました。
私は、こうした「体質」を一掃し、私たちの意識を変える改革を進めます。みなさまの声に謙虚に耳を傾け、多様な意見を紙面に反映していきます。
と宣言しています。
http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014122301.html
大手新聞が法科大学院制度そのものの批判に及び腰な理由として、広告事業との関連を指摘する声も聞きます。私はそんなことはないと思っていますが、そのような誤解を生まないよう、宣言通りに多様な意見を紙面に反映していただきたいと思います。
以上、数十年来の有料購読者として希望します。
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コメント
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朝日は自分たちが試験エリートになれなかったという僻みがあるので、試験エリートでスマートな人間が嫌いっていう根本的な問題があるので、報道姿勢を変えるのは困難。
試験って最低限の事務処理能力を問うものなので、司法試験が機能していない今予備試験くらいしかまともな物差しがないのに、予備試験を敵視するのは間違ってるというのに。
実際、どこの大手事務所も、裁判所も若手予備試験合格者をとるのに躍起になっている。
2年も3年も机上の空論に付き合ってるよりは、実務で現実の問題にぶつかり本当のプロセスを学ぶ方がましかってことすら分かっていない、というかそれも無視しようとしている。
投稿: | 2015年3月 2日 (月) 03時48分