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2019年4月26日 (金)

実は「容疑者」は人権に配慮した呼称だった!

池袋で起きた痛ましい交通死亡事故の加害車両の運転者について、マスコミが「容疑者」と報道しないことを批判する声があると聞きます。その批判の背景には、「容疑者」と呼ぶことにより、運転者を「犯罪者ないし犯罪者と強く疑われる者」であると位置付けるべきだという考えがあると思われます。しかし「容疑者」という呼び方に、そもそも、そのような意味があったのでしょうか?

「容疑者」と「被疑者」の違い

「容疑者」という言葉は、呼称としてはマスコミの造語です。「容疑者」をあえて定義すると「逮捕後、公訴提起前の身体拘束中の被疑者」ということになります。
逮捕の有無に関わらず在宅で捜査を受けている「被疑者」を含みません。
今回の加害車両の運転者は逮捕されていないので「容疑者」の定義に当てはまりません。したがって、報道で「容疑者」とは呼べないことになります。

2 「容疑者」という言葉の沿革

もともと「容疑者」という言葉は一般的な報道用語ではありませんでした。この言葉が報道に頻繁に登場するようになったのは約30年前です。
「容疑者」呼称が登場する前、逮捕された被疑者は報道で実名の呼び捨てにされていました。
たとえば
「○○署は1日、甲野乙郎(三五)を殺人容疑で逮捕した。調べによると、甲野は○○した疑い。」
という感じです。
今ではとても信じられませんが、それが当たり前で、一般読者も逮捕された者の呼び捨て表現に特に違和感を持っていませんでした。
しかし、約30年前、犯罪報道による人権侵害を問題にし、被疑者の実名報道を改めるべきとの機運が高まりました。きっかけは浅野健一著「犯罪報道の犯罪」が発した問題提起が広まったことが考えられます。
そうした機運の中でマスコミは、逮捕段階で被疑者を犯罪者と同視するかのような表現を避けるため、従来の呼び捨てをやめて「容疑者」という呼称を付けるよう改めました。呼称を「被疑者」でなく「容疑者」とした理由は、厳密には「被疑者」と概念が同一でないこと、「被疑者」だと「被害者」と語感が似て間違えやすいことが考えられます。
このように「容疑者」呼称が始まった趣旨は、逮捕された被疑者の人権に配慮して従来の呼び捨てによる犯人視報道をやめ、無罪推定原則に基づき「逮捕されてもまだ犯人と決まったわけではなく、容疑(嫌疑)をかけられている段階にすぎない」ということを強調するためだったのです。

3 現在の「容疑者」の意味

こうして、無罪推定原則に基づく人権擁護を趣旨として始まった「容疑者」呼称は、当時、「逮捕=犯人」とみる世間の安易な風潮を変えるのに一役買いました。
しかし、逮捕後の被疑者を、呼称の点で特別扱いすることに変わりはありませんでした。また、「逮捕=犯人」という一般の捉え方が飛躍的に改まることもありませんでした。
そのためか、「容疑者」呼称は現在、当初の趣旨に反し、犯人ないし犯人と強く疑われる者であるとの「レッテル張り」の意味を持つようになっています。結局、「レッテル」が「呼び捨て」から「容疑者」に変わっただけでした。
無罪推定原則を徹底するならば、逮捕された被疑者も、犯罪報道以外の一般の記事に登場する人物と同じく、肩書・敬称付きで報じるか、根本的には犯罪報道の原則匿名化が検討されるべきでしょう。

 

※追記
容疑者の定義は原則として「逮捕後、公訴提起前の身体拘束中の被疑者」ですが例外があります。たとえば①既に被疑者として実名報道されている人物に逮捕状が出た場合②警察が被疑者の逮捕状を取って公開捜査をしている場合③現行犯的な被疑者が死亡した場合などです。このように例外が結構あり、その基準も明確ではありません。報道の「容疑者」呼称はかなり場当たり的に運用されているのが実情です。

 

 

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